2012年5月12日土曜日

テクノロジーとしての原子力

 最近読んだ原子力関連の記事「ATOMIC DREAM ワインバーグ博士とありえたかもしれないもうひとつの原発の物語」がなかなか面白かった。3.11より原子力関連の記事に注目してきたが、この話はどちらかというとテクノロジーとしての原子力の歴史や経緯であり、いままでと違った視点で読める話なので興味深かった。

 簡単に記事を要約して説明すると、現在世界で多く存在する軽水炉(福島原発と同じ形式)だけではなく、原子力研究の過程ではもっとさまざまな原子力利用方法が検討されており、そこには最近話題に上るようになってきた「溶融塩炉」というものもあった。最近でこそ中国で取り組みが具体化してきたり、マイクロソフトのビル・ゲイツが研究に資金を出したりして注目が集まり始めているが、この技術は1960年代にには試験稼働できる技術があり、軽水炉型にくらべて幾つかの大きなメリットもありながら歴史上でほぼ日の目を見なかったという話である。
 この記事の中では、溶融塩炉型には以下のメリットがあるとして紹介している。

   * 燃料となるトリウムはレアアース採掘の副産物として世界の大部分で採掘される。処分が難しい物質の為、これをエネルギーに転換できると廃棄物処理観点からもメリットがある。

   * トリウムは自ら燃えない為に、火種としてプロトニウムを利用すれば、プルトニウムの処分も同時に行う事ができる。
   * 液体化したトリウムを利用した場合、事故時に爆発を起こす要因が少なく、軽水炉よりは安全と言える。
 面白いのは客観的に評価した場合には、現在のウランを利用する軽水炉型よりはメリットがあると考えられており、研究者レベルではそういった認識はあったものの、政治や営利的な経緯で、日の目を見れなかったという事だ。次のような点がポイントとして挙げられている。

   * プルトニウムを出さないので核兵器に転用できない。核兵器を作れない。

   * 一番最初に稼働したの原子力潜水艦ノーチラス号(軽水炉)だったので、流れが軽水炉に傾いてしまっていた。
   * いったん軽水炉型原発が稼働を始めると、既得権益者が別の技術の発展を阻む結果となり、実現レベルに行かなかった。
 科学史として読めば非常に面白い記事であり、また結果的に世の中の流れは科学よりは政治や営利で水が低きに流れるような代表的な事例だとも言える。私は元々科学大好きな人間なので、こういった記事は好きなのだが、いまさらながら既に危険だと解っていて、ずっと色々な方法が検討され続けてきた原子力分野が、結果的にはただ営利や政治に流されていい加減な事をやってきたという事を再確認させられる記事である。

 そう言えばちょっと前に、日本の原発をインドネシア、ベラルーシなどに輸出という記事をみたところだが、こういったテクノロジーの歴史を知ると、より一層に原発輸出というのが馬鹿げた事なのだと思う。軽水炉とはずっと長い間、科学者の中では危険性を懸念されてきたものであり、本来はとっくに旧式で引退させるべき技術だった。それなのに日本では3.11後に原子力の後退は先端技術を失うと騒いでいた原発村の科学者などがいたのだから、イタすぎてコメントする気すら萎える。

 もっと言えば、福島事故時には結果的にフランスとアメリカに便りっきりであり、日本にはまともな技術がない事は証明されている。また技術に取り組む姿勢として問題が多い。よそに原発を売ることよりも、4号機を国家総力でなんとかしないといけない事態になのだが、どうも危機感が未だになさすぎる。

 ちなみに誤解が内容に述べるが、溶融塩炉という技術も原子力である以上、それなりの危険やリスクを伴う技術である事には変わりない。実用するにはまだ課題はありそうだし、実際に稼働を始めてから見える問題点も出てくるだろう。

 しかし、それでも日本の原発推進キャンペーンの低能さと比べればはるかにマシな議論ができるだろう。旧式の軽水炉を先端技術として崇めているような馬鹿ばかりが集まりながら、それでも反原発の人々を低能呼ばわりしている状況に比べれば・・・せめて、こういった技術的にも高度な議論をしてもらいたいものだ。

 最後に、仮に溶融塩炉がいかに素晴らしい技術であっても、それでも3.11を経験したこの国に住む者としては、原子力発電は止めるべきだと思う。研究までするなとは言わないが、今までさんざん騙され続け、被爆者を減らそうとも救おうともせず、ごまかしにごまかしを続ける、この原子力村の状態を見れば、原子力のようなリスクのある技術を到底任せる事はできない。原子力よりさきに、原子力村をなんとかする技術なり方法論をクリアする方がさきである。 
 
<参考>
・ATOMIC DREAM ワインバーグ博士とありえたかもしれないもうひとつの原発の物語
 http://wired.jp/2012/04/11/atomic-dream-01/ 
・トリウム熔融塩炉は未来の原発か?
 http://wired.jp/2012/05/03/thorium/
・トリウム溶融塩炉ってなんだ?Part2
 http://www.nagaipro.com/2009-10-05-06-25-25/1592-part.html
・中国、トリウム溶融塩炉と進行波炉開発に照準
 http://news.searchina.ne.jp/disp.cgi?y=2011&d=0316&f=column_0316_013.shtml
・Life is beautiful: 日本が50以上の原発と大量のプルトニウムを抱え込んでしまった本当の理由
 http://satoshi.blogs.com/life/2012/05/nuclear.html
・フランス原子力庁最高顧問、福島原発第四号機・核燃料プールの危険性を指摘
 http://franceneko.cocolog-nifty.com/blog/2012/05/53-e776.html